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泡盛の熟成の鍵を握るモノとは?

熟成し続ける泡盛

お酒によっては、「熟成」することで酒質が変わり、味や香りが変化するものがあります。代表的なのはウイスキーやワインなどでしょうか。

「〇〇年物」と呼ばれるような、長く熟成したものほど価値が高まり、中には一本何千万円という恐ろしい値段が付くものもあります。熟成のメリットは「まろやかになる」「味の深みが増す」「香りが良くなる」など、いろいろと言われますが、要するに「美味しくなる」ということですね。熟成させる前より、熟成させた後の方が圧倒的に美味しい…。

熟成には年単位の時間が掛かります。その間、温度調整などの手間も掛かるし、保管する場所も必要です。それでも人々がお酒を熟成させるのは、ひとえに「うまい酒をつくる」ためなのでしょう。

泡盛イメージ

そして、泡盛も熟成で美味しくなります。時間が経つほどに、

① 辛さが和らいでいき(アルコールの刺激が少なく感じるようになる)

② 香りが良くなっていき(何種類もの香りの成分が生まれ、それらが混ざり合った「芳醇」な香りになる)

③ シンプルだった味わいがコクのある(何種類もの旨味成分が混ざり合った奥深い)味わいになっていきます

よく育った古酒は、何かのシロップみたいにトロリと濃厚な味わいで、何か特殊なモノを入れているのでは?と思うほど甘い香りになります。

熟成の鍵を握るのは樽?

熟成を以って完成とするお酒は世界中に数多くありますが、そのほとんどには「樽(たる)」が関わっているようです。

木の樽に入れたお酒は、時間の経過で樽の成分が溶け出し、その成分と混ざることで酒質が変わっていきます。味は荒々しく、香りは攻撃的だったお酒が、木樽の中で長い時間を過ごしている間に、落ち着いた味わいと芸術的とも言える香りに昇華する。そして、樽から卒業して瓶詰めされたお酒は、その時点で熟成がストップすることになるようです。

上等なウイスキーが醸すあの芳醇な香りと重厚な味わいも、木樽というパートナーがなくては成し得ないのです。熟成によって元々の酒質がガラリと変わるようなお酒は、大体が木樽のお世話になっています。そのため、うちの酒はフレンチオークがいいとか、ミズナラの木がどうとか、コモンオークが、シェリー樽が、と樽の種類にもこだわるようです。

泡盛イメージ

しかし、泡盛の場合、樽の力を借りずとも「変身できる」という特徴があります。泡盛はたとえ瓶の中であっても、自身の力で熟成し、酒質が大きく変わっていきます。世界に数多ある蒸留酒の中でも、この「瓶熟成」ができるのは泡盛だけではないかと言われています。

そういった理由から、泡盛は「中古品」が出回ることも多く、今ではヤフオクやメルカリなどのサイトで中古の泡盛が取引されてたり、骨董品屋、リサイクルショップで販売されていることもあります。

瓶に詰められてから長い時間が経つほど美味しくなるので、古いものほど価値が付き、昔1,000円だったお酒が中古でも2,000円で売れるという現象が起こるのです。しかし、その泡盛の「瓶熟成」に無関心な人も多く、驚くほど安い金額で手放すケースもあります。入手困難な伝説の泡盛が、さりげなくBOOK-OFFのお酒コーナーに並んでいたりするのです!!!

実は、私は先日、20年以上は堅い古酒一升瓶(しかも高度数!)を千円台で手に入れました…😁。

泡盛が瓶の中でも熟成する理由

しかし、なぜ泡盛は貯蔵容器を問わず熟成が可能なのでしょうか?

それは、泡盛の作り方に要因があるようです。例えば焼酎の場合、「麹(こうじ)」というお酒の素(もと)を仕込み、その後で麦や芋などの主原料を加えて仕込むという工程ですが、泡盛の場合は大量の「こうじ」だけで仕込み、それだけで酒造りを進めます。いわゆる、「全麹仕込み」というものです。

泡盛こうじには、「原料の米+微生物」で生まれる、香りやうまみのもととなる成分がたくさん含まれており、最終的にお酒になった時にも、「こうじ」がある程度の量が残ることになります。いっぽう、焼酎は「こうじ」の他に別の原料がたくさん含まれることになるため、お酒になった時には熟成して変化する「こうじ」成分の割合が少なくなるのです。

そのため、泡盛は瓶に詰めた後でも熟成が進む(他のお酒に比べて熟成し易い)、ということになります。泡盛はゆっくりとですが、絶え間なく成長していく神秘的なお酒です。ですので、同じ銘柄のお酒でも、前に飲んだ時と何か違う…?ということがあります。

津波古酒造の杜氏(とうじ)の大城さんが、

「泡盛は買ったら終わりじゃないよ(意訳:飲んで最後の一滴がなくなるまで、常に泡盛は成長し続ける。今まで俺が育ててきたが、こいつはまだまだうまくなるよ。だから、これからはあなたなりに育ててみてください。でも別にすぐ飲み切ってもいい。もう十分にうまいから)」と話していたのを聞いたことがあります。

私が働いているお店でも、お客様から「前に同じもの飲んだ時より美味しい気がする」と言ってもらえることがあります。蔵元さんが産んで育てた泡盛が、成長しながら巡り巡ってこのお店に辿り着き、より美味しくなった姿をお客様にお披露目できる。

そして、もしかしたら、その泡盛を大事に扱うことで、その成長に貢献できているかもと想像すると、嬉しくなります。

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沖縄は温暖な気候のため、何か安心できるせいか、時間の流れがゆっくりと感じるみたいです。だから、沖縄の住民はゆったりとした性格の人が多く、時間にルーズな「ウチナータイム(沖縄時間)」という言葉もあります。

「信号が点滅したら急いで渡ることはない。次、青になるまで待てばいいさあ」

泡盛もそんな沖縄の風土と同じように、ゆっくりと時間をかけて美味しくなるお酒なのだと思います。

でも、くれぐれも、お酒は二十歳になってから。

 

沖縄料理に最適な泡盛をレコメンドしてくれるオススメのお店

「土香る」詳しくはコチラ

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(補足)
◉熟成:時間経過による良い意味での成分変化。「エイジング」っていうかっこいい言い方もある。
◉辛さが和らぐ:主にエタノール分子と水分子の会合により、舌で感じるアルコールの刺激が少なくなるため。
◉香りが良くなる:脂肪酸と高級アルコール類(これらが混合した物質を「フーゼル油」と呼ぶ)の化合による成分変化(エステル化)が主な要因。蒸留酒に含まれる脂肪酸は「有機酸」「有機脂肪酸」「有機化合物」「高級脂肪酸」など色んな呼び方があるので紛らわしい。エステル化以外にも、4(よん)-ビニルグアイヤコールというフェノール化合物が醸造→蒸留→熟成という過程でバニリンに変化するなど、単独の物質が科学変化するケースもある。
コクのある味わいに:時間経過によってエステルが増え、そして邪魔な味(雑味)が酵素による分解や蒸散などで取り除かれるため、多数の旨味成分(アミノ酸、高級脂肪酸)の味をそれぞれ感じ易くなるためだと思われている。
◉樽材の溶出する成分:タンニン・リグニン・ポリフェノールなど。
◉瓶:ガラス質の容器は成分の溶出が全くなく、外気の影響もほぼゼロ。良くも悪くも酒質が変化しにくい。保存という観点では優秀な容器。
◉こうじ(麹):原料に麹菌を繁殖させたもの。泡盛は米に黒麹菌を繁殖させてつくる。泡盛の麹は、「米麹」「黒麹」「泡盛麹」などの呼び方がある。焼酎の麹は原料に応じて「米麹」「麦麹」「芋麹」に分かれる。総称して「焼酎麹」とも呼ぶ。ほとんどの焼酎は「米麹」からつくる。そば焼酎も、黒糖焼酎も、ピーマン焼酎もトマト焼酎もシソ焼酎も。米麹が一番有能らしい。
◉お酒の微生物:日本的なお酒は「麹菌」という菌の生命活動を利用して造る。麹菌はコウジカビともいう。日本酒は黄麹菌、焼酎は白麹菌、泡盛は黒麹菌を主に使用する。
◉泡盛はこうじだけで酒をつくる:これを「全麹仕込み」という。対して焼酎は「2次仕込み」という。
◉熟成して変化する成分:主に脂肪酸とアルコール類。これらが化合し「リノール酸エチル」や「フェルラ酸エステラーぜ」のようなエステル類に変わっていく
◉瓶熟成は泡盛だけ:アルコールと水分子の会合(辛さが和らぐ変化)はどの蒸留酒でも時間経過で起こる。しかしエステル類を豊富に生み出す現象が起こり易いのは蒸留酒の中では泡盛以外には見当たらないらしい。ただし醸造酒(ワイン、日本酒、ビールなど)はエステル化する脂肪酸が豊富なため、貯蔵容器に関係なく熟成し芳香成分を生み出すもよう。しかしその熟成には繊細な温度管理などを要する。

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