グルメ

新たな流れを作った泡盛

泡盛ゆんたくイメージ

今なお人気の残波ホワイト

残白(ザンシロ)という愛称で、沖縄では知らない人はいないほどの超有名な銘柄。今や日本全国に流通しているので、もはや説明不要な銘柄かもしれませんが、そうなるまでの道のりは長いものでした

1950年代、泡盛がまだ「臭い」「キツい」ものばかりだった頃。味も香りもスッキリした「甲焼酎」なるジャンルの酒が沖縄を席巻しました。無臭の甲焼酎は若者を中心に大ブームとなり、中でも「白鷺(しらさぎ)」という焼酎は、1960年代の酒市場の8割を占めるほどだったそうです。時代の変化に飲み込まれ、たくさんの泡盛酒造所が廃業に追い込まれる中、比嘉酒造は「泡盛も時代に合わせて変わっていかなければならない」と考えていました。そして、当時の酒造所がほとんどしていなかったマーケティングを積極的に行い、「時代にマッチした泡盛」を追求していきます。比嘉酒造二代目は、「水のように飲める酒をつくりたい」と関係者に話していたそうです。(二代目はお酒があまり強くなかったそうで、そのことも関係しているのかもしれません)

ザンシロイメージ画像

大ブレイクするザンシロ

そして、1988年、「残波ホワイト」が発売されました。この銘柄は「減圧蒸留」という、当時の泡盛業界では先鋭的な製造方法で実現できた、良い意味で「泡盛らしくない」泡盛でした。発売当初は、「味の薄い酒」など批判もあったようですが、クセの少ないフルーティーな風味に、泡盛を敬遠しがちだった若者や女性の支持を一気に獲得して、みるみるうちに大ブレイク。

民謡歌手のげんちゃん(前川守賢)が歌うCMソングも、耳に残るポップで楽しいメロディーと歌詞で、沖縄県民に爆発的に浸透しました。

(   ♪  ) あっわもり 残 波っ、飲んでヒっヤルガヘイっ、あーわもーりざああんーぱああ 

(三線)   上 中中上四中  ◯  四 中 工  工 中上中 合中工上 合 上 中 工 中上 老 四 工合乙四

この残波の歌はテレビでもラジオでも繰り返し流れていたので、30代以上の方なら、もれなく全ての沖縄県民が口ずさめるのではないでしょうか。ちなみに歌詞はたぶんこの一行だけです。ヒヤルガヘイって言葉の意味は未だにわかりませんが。。

1990年代には、残波を置いてないスーパーや飲み屋を探すのが困難なほどだったと思います。泡盛の概念を覆すほどの飲み易さが、マイルドな酒を求める時代にピタリとマッチしたのでしょう。需要が増えすぎて、一時期は出荷量が追い付かずに生産ラインがパンクしていたそうです。

当時のCMのYouTubeはコチラ

アンチが登場するほどの人気

あまりにも流行りすぎて、「ザンシロは味がしない」「泡盛と呼べない」「インチキな作り方しているに違いない」「金儲け主義」と、アンチが出現するくらいでした。それまでの泡盛らしい泡盛を支持していた人にとって、ぽっと出の新参者が幅を利かせているのは癪に障ることだったのかもしれません。とにかく、嫉妬する立場の人が猛烈に嫉妬するほど売れたのです。

私のお酒デビュー当時も、ザンシロのお世話になっていたことを覚えています。周りの先輩たちが口々に「とりあえず残波飲んでみ」的なことを言っていました。ザンシロさえ飲めないようなら酒は飲まない方がいい(笑)、みたいな感じで。

現在でも飲み易い泡盛は?と問われたら、沖縄人の大多数がザンシロを挙げるでしょう。この銘柄は、沖縄の若者や女性の「泡盛離れ」を救ってくれたヒーローで、「時代の流れを変えた泡盛」と言っても過言ではないと思います。

 変化の背後に「人」あり

「人が嫌がることや、人がやらないことをやれ」「人が遊んでいる時こそいっぱい仕事するんだ」が口癖の二代目は、酒が飲めないのに夜の街へ出歩いて流行りを捉えたり、九州の色々な焼酎メーカーに見学に行って情報をかき集めたり、独学で製造の機械をつくったり、他社がやらないようなことにいち早く取り組む人だったそうです。そんな人物だからこそ、時代を変えるようなお酒を生み出せたのでしょうね。そして、この「残波ホワイト」が今もなお売れ続けているというのは、もはや当時のアンチも黙らざるを得ない「良い泡盛」の証明なのだと思います。

比嘉酒造のHPはコチラ

くれぐれも、お酒は二十歳になってから。

沖縄料理に最適な泡盛をレコメンドしてくれるオススメのお店

「土香る」詳しくはコチラ

イメージ画像

(補足)

◉減圧蒸留:蒸留機内の気圧を下げ(真空ポンプで釜内の空気を抜く)、低い温度(40-50℃)でも蒸留できる方法。高い温度で気体になる成分をほとんど気体にせずに蒸留できる。高沸点成分は匂いや味が強いものが多いため、この成分が少なければクセや雑味の少ない、すっきりした酒質になりやすい。しかし、旨味の元となる成分…高級脂肪酸(カプロン酸・ラウリン酸など)、フェノール類(フェルラ酸など)、高級アルコール類(イソアミルアルコールなど)が少なくなるため、熟成で酒質の変化が弱い。そのため古酒を作るのには向いてないと言われる。

◉減圧蒸留は、1972年に福岡の「喜多屋」という日本酒メーカーが開発した。なんと特許を取らず(!)他メーカーに普及させ、焼酎業界を大いに発展させた。

◉泡盛で初めて減圧蒸留を取り入れたのは1983年の請福酒造。

イメージ画像

 

前のページへ戻る

沖縄の天気

特派員として記事を制作してみませんか?